思いやりの神様「クーラ」(ギリシャ神話)
神話を読んでいると、昔の人々のどう子どもを教育していくかという考え方が伺えます。道徳や文化を「子どもにも分かりやすく明快にかつ短文で」伝えるのは容易ではありません。
※私も分かりやすく伝えるため、大分コミカルに表現しますが、あくまで「語り部の一人」という事でご容赦ください。
ギリシャ神話「クーラ」
昔々、思いやりの神様であるクーラ様が川を渡っていると、水底に粘土状の泥を見つけました。クーラ様はそれを手にすると、おもむろにこねて像を形作りました。
クーラ様が2つの足に2つの手、1つの頭がついた土くれを眺めていると天空の神様ジュピター様が現れます。
「ああジュピター様この像に命を与えください」
クーラ様がお願いするとジュピター様は像に魂を吹き込みました。
クーラ様は言いました。
「この生き物はクーラと名付けてよろしいでしょうか?」しかしジュピター様は認めません。
「私が魂を込めましたのでジュピターと名付けます。」「しかし、私が形を作りました。」
2柱は名前を巡ってやがて言い争いだしました。
そこに大地の神様であるガイア様が現れ言います。「我が身体を提供したのだ、その像はガイアと名付けるべきであろう。」
こうなると、もはや収拾がつきません。
そこで時空の神様クロノス様に仲裁してもらうことにしました。
クロノス様は言いました。
「もし、この像の命が止まるとき、魂はジュピターが身体はガイアが受け取るように。
しかし生きている間の管理は…クーラ、貴女の役目だ。
名前については元は土くれ(humus)なのだから人(homo)とでも呼べばよかろう。」
クロノス様の裁定は公正だと3柱は納得しました。
めでたしめでたし
ホモサピエンス、ヒューマンの語源となった神話です。この神話はギリシャ神話と言いましたが、ローマ時代に編纂された物語です。クーラという独自の神様も登場するローマオリジナルストーリーだったようです。
ではギリシャの神々を登場させつつ、ローマの人達は何を伝えたかったのかを想像します。1つ目は「身体も魂も神様からの借り物に過ぎない」という事。生まれを選ぶことはできず、老いから逃げることはできず、病気と死を避ける事はできません。身体は大地に、魂は天空に返さねばならないのです。文化的な死生観が表現されています。
2つ目は「わざわざ登場させている思いやりの神様」です。この話は古代における二次創作であり、オリジナルキャラクターがいるというならばそれを通じて伝えたい事があったはずです。本作では「人は生きている限り、思いやりを持たなければならない」というローマ人の道徳観が表現されているのでしょう。クーラは現在の「ケア」という言葉の語源となっており、ローマ人の思いは現代にも伝わっています。
最後までお読みいただき
ありがとうございました。
参考文献
中古価格 |